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ポムロールに死す 絶望編 より続く

食事の後、シャワーを浴び死んだように寝るつもりだったが、時差のためか4時過ぎにはすでに目が覚めていた。幸いなことに風邪はひいていないようだ。

昨夜の話ではH***zのメカニックは朝一番でホテルに電話をよこす約束になっていたが、もちろんそんなことを信じて時間を潰すわけにはいかない。よって支店が開いたら、すぐに直接行くつもりでいた。

そして8時過ぎに直接支店にたどり着く、開いていた。中には頼りになりそうな男性が1名。早速車の鍵を見せ、何かデータベースに入っているか確認してくれと聞いてみた。するとまたも驚きの事実が。

「何も入ってないよ」

H***zのシステムはいったいどうなっているのかと切れそうになったが、私が切れても何も話は進まない。我慢して昨日あったことを説明した。するとどこかに電話する彼。すると電話先には我々のデータが残っていたようだ。

今回は展開が早く、メカニックは空港から来る、この時間は渋滞しているので9時を過ぎるだろうと。そして、昨日はこの支店が開いている時間(17時まで?)だったらもっと早く助けられたのにと言われた。

1時間ほどあるのでホテルに戻り、現状を全員に説明した。本来であれば10時30分からシャトー見学であったが、当然無理。そちらのキャンセルはS氏に頼んだ。

9時にN氏と共にH***zへ向かうも、まだ来ていない。ちょうどいいのでふたりで朝食を取った。たまたま駅に美味しそうなパン屋があったので入ったのだが、確かに美味しい。PAULという店で有名なのかと思ったらあちこちの国にあり、日本にもかなりあるらしい。今まで気がつかなかった…。

さて食べ終わり9時30分、そろそろかと思ったら携帯電話が鳴る。早速向かうとH***zの前には想像よりも大きいトラックが1台とおっちゃんが一人。ちなみに彼は英語が全然出来ない。

N氏がデジタルカメラで撮った車の状態を見せ、出発となった。トラックに乗ってみると確かにカーナビなるものは付いていない…。地図で場所を示し、現場に着いたのはおよそ1時間後だった。

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車は幸いにも昨日とまったく同じ状態でそこにいた。いきなりトラックを奥に入れて同じ状態になっては困るので、最初は徒歩でここまで来て説明をする。彼は顔色一つ変えトラックに戻った。

 

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しばらくするとトラックがバックで入ってきた。どうやら荷台にあるウインチを使うようだ。彼はワイヤを引き出し、その先に太いシートベルトのような物を連結した。大丈夫かと思ったら、N氏があれはなかなか強いんですよと言う。なるほど。

すると彼は以外な行動に出た。そのベルトを左前方車輪の軸にかけるのである。えっ!シャシーに付いているフックを使うのではないの?と思ったが素人がプロの仕事に口を出すのも失礼かと思い、黙って見ていた。

準備が整いウインチのリモコンを持ち、彼が車に乗る。エンジンをかけ、ウインチでちょっとずつ引っ張りながら、エンジンをふかす。うまく出るのか…。

するとパチンと音がしてベルトが切れてしまった、いやフックが外れたのかも。どちらにしてもやり直しである。それを見ていたN氏が助手席にある車の説明書を取り出し、熱心に何かを探し始めた。しばらくすると見つかったらしく、今度はトランクを開け中のものをすべて取り出す。その下の補助輪の横に探していた金具はあった。

Image095a 金具を持ち、車前方へ。そしてフロントバンパーの上にある隠し穴を開け、そこにその金具をねじ込んだ。な〜るほど、必要なときだけ付けるんですね。って私が感心するのはいいとして、なんでメカニックのおっちゃんがこのことを知らないのか。ちなみにN氏がこの金具を彼に見せたら「トレビアン!」と言ったらしい。おいおいこれ国産車だろうが、と思いっきり突っ込みを入れたかったがもちろん黙っていた。どこの国でもベテランは新しい技術にあまり興味がないようで。

Image097a これ以後はその金具にワイヤを引っ掛けて作業は進行。2度目に引っ張った時には車が動き少し上がってきた。そしてワイヤーの角度を変えつつ作業は進み、車が完全に脱出したのはおよそ1時間後であった。

写真は実際に車輪が埋まっていた部分(水溜りになっているのが前輪のはまっていた場所)。自力で出られるわけがありません。

さて上がった車を見て彼は自走は無理だから積んで帰る、みたいなこと言っている。確かにこのまま走ってブレーキが利くのか心配だ。

Image101 そして車はそのままトラックに積まれた。トラックはそのままH***zの作業場があるボルドー空港へ向かう。着いてみるとびっくり、事故車が大量に置いてある…。結構事故は多いのだね。

彼は車の確認に時間がかかるから食事をしてこい、みたいなことを言う。この時点で12時30分。我々ふたりは1時間後にきれいになった車、または代車が手配されていることを信じ、歩いて10分ほどの空港ターミナルへ向かった。

カフェでサラダあたりをつつきながら、談笑する我々。後ちょっとですよ。私は昨日通訳をしてくれた女性に車は救出できました、と電話で報告したりした。

13時35分、満を持してH***zの駐車場に戻るとN氏がこう呟く。

「そのままですよ!」

確かに我々の哀れな407は泥だらけのまま、駐車場に置かれていたのだった…。愕然とする我々ふたり。

待っていてもしょうがないので、目の前にあった事務所らしき建物に入る。すると最初に入った部屋には責任者らしき女性がいた。そして彼女に我々の車を指差し進捗状況はどうなっているかと聞くと、「何も聞いていない」との衝撃の答え。この瞬間私は気力を失い、これまでの経緯を説明する言葉が出なかった。

それを察したN氏が、代わりに今日車を引っ張りあげて確認のためにここにもって来たことを伝えてくれる。ありがたい、というかあのおっちゃんはどこに行ったのか(多分昼食中)?

私はこの日、強いショックを受けて言葉を失う人の気持ちが少し分かった気がした。

彼女は外に出て、ちょうどそこにいた女性メカニックに話を始めた。そして我々のところに戻ってくると、今から洗車と確認をします、問題なければそのまま乗って帰ってOK、と言う。そして女性メカニックが407に乗り、洗車場に車を入れた。

Image104a 高圧水で右前後輪を洗い流し、洗車機へ。洗車終了後、彼女が車を発進、急停止して完了。見ている我々のところにやってきて、「OK」と言い鍵を渡してくれた。やれば早いのね、仕事。

14時05分、およそ21時間ぶりに407は我々の元に戻ったのである。あまりに長い救出劇であった。

ちなみに契約時にフルインシュアランス(保険全部)をかけてあったためか、昨夜のタクシー代は向こう持ち。本日の作業も特にサインなどを求められなかった。もし保険をかけていなかったらいくら請求されたことか…。

メカニックのお姉さんに問題なしと判断された車だが、実際には問題大ありだった。110km/h以上のスピードを出すと車体がガタガタと揺れるのだ!そしてそれ以上出すと尋常ではない揺れが…。

そして調子は日ごとに悪くなり、最終日には80km/h以上出せないという悲惨な状態に。ウインチで引き上げる時に車軸かホイールあたりが歪んだのだろうか。

フランスの高速道路は田舎だと平均130-150km/hで走っている中これはつらい。スピード計は250km/hまであるのに…。そしてトラックにも抜かれるという屈辱。毎日、高速道路で車がバラバラに分解するのではという恐怖と戦いながらの移動となった。

最終日H***zまでの道程が何と遠かったことか。車を返しこの状態をスタッフに報告すると、「ノープロブレム」と。とりあえず、無事に返せてよかったよ。

さようなら、407。君の性能を引き出すことが出来なかったのが心残りだよ。

そして我々一向はTGVでパリに戻った。

fine

教訓
舗装されていない道を走るのは止めましょう(特に雨の後)。
レンタカーする時、保険はかけたほうがいいかも。
ヨーロッパでは日曜日はおとなしくしていましょう。