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フランスを旅行していた我々はTGVでボルドー(Bordeaux)駅に着き、H***zでレンタカーを借りた。割り当てられたのは比較的新しいPeugeot 407のセダンである。ちなみにMT仕様。パリで借りるとATもそこそこあるのだが、田舎に来るとぐっと少なくなり、またあってもメルセデスのEクラスあたりでとっても高くなってしまう。

そしてこの2時間ほど後に、この車と我々は大変な出来事に巻き込まれたのである。

日曜日のこの日、車を手に入れたのは15時を過ぎていたので軽くサンテミリオンやポムロールのワイン畑でも見て、ホテルに行き明日からのシャトー見学に備える予定でいた。

そして我々はCatusseauという町に入った。航空写真で見るとここである。

Google Maps

そして我々がル パン("Le Pin" とても有名なワイン)はここかと、小さな家を通り沿いに見つけた。表に出てゆっくり見ようかと思ったが、弱く降っていた雨が急に強くなりしばらく車の中で様子を見ることとした。

そしてこの強い雨がこの後、我々を不幸のどん底へいざなったのである。

しばらく待つと雨が止み、また車でそろそろと動き始めた。そして細い道の奥にある小さい家がル パンであろうと判断しワイン畑の道を進んでいった。果たしてそこは目指した場所であったようで、ワイン通のS氏はやたらと嬉しそうだ。

ル パンのワイン畑を右に見ながら進むと、突き当りにあるT字路の先は何もなさそうである。そこでUターンすることとした。

左折し、バックし、前進して元の道に戻りますか。

左折。

バック。

前進、

前進、

前進、しませんけど…。

いや、いくらMT車が不慣れといえ前進くらいちゃんと出来ますよ!

もう一回。

異変を感じた助手席のN氏がドアを開けて様子を見てみると、

「タイヤが沈んでます」

ギョギョッと思い全員で外に出て確認してみると、確かに右側の前後輪が沈んでいる。っていうかとりあえず、どうしてこんなに柔らかいの?何故ってそれは粘土質の土で、雨により大量の水分を含んでいたから…。

前進はダメだが後進は行けそうということで、N氏に運転を代わってもらい脱出を試みる。一瞬、脱出できるかと思ったが出る気配はない。というかますます沈んでいくような…。

Image089a もがけばもがくほど深みにはまる、ということを実感した瞬間だった。

不幸はさらに続き、弱かった雨がまた強くなる。そんな中全員で車を押したり引いたり。でも最近の車は重くって、とてもそんなんでは動かない。しばらくするとエンジンの回し過ぎか、いや〜な匂いが。

格闘すること30分ほど、自力での脱出を諦めH***zの助けを呼ぶことにした。この時点で18時あたり。

私のイメージとしてはカーナビのGPSからH***zが我々の場所を特定。1時間ほどでH***zのお兄さんがお待たせ〜という感じでやってきて、30分ほどで車を救出してくれると信じていた。

しかし現実はそんなに甘くない。

H***zのフリーダイヤルに電話する、多分着信先はアイルランドあたりのコールセンターであろう。問題を伝え、助けをよこして欲しいと頼む。オペレータが場所はどこかと聞くので、GPSは使わないの?と聞くとメカニックの車にカーナビは付いていませんと衝撃の答えが…。

初めて来たフランスのワイン畑。何処と言われて説明できるはずもない。しかたなく町の名前と一番太い道路名を伝える。するとオペレータは45-60分でメカニックが行く、来なかったらまた電話してくれというのでやれやれと思い電話を切る。そしてこの時、私の携帯電話のバッテリは1/3。オペレータに私の電話番号を伝えたのに、嫌な感じである。

ホテルにチェックインする前にやって来たため、不幸中の幸いで荷物は全部乗っている。体が冷えないように皆とりあえず、シャツを替えた。

さてH***zのメカニックは直接ここには来ない、ということで指定した道路まで降りていった。カフェかバーで時間を潰せばいいでしょうと。

そしてその小さな町には、カフェもバーも1軒たりとも存在しなかった。

しかたなく雨宿りをしつつ待つ。

待つ。

そして19時近くになっても来る気配がない。もう一度電話して確認することにした。

電話すると日曜日夜だからオペレータの数が少ないせいか、中々つながらない。そして私の携帯電話のバッテリは切れた…。

N氏とS氏の携帯電話を借りて電話をしてみると何故かつながらない。理由として考えられるのは私のはボーダフォンで彼らのはドコモだということ。

さて困った。公衆電話なんてないし。

町にはカフェもバーもなかったが、なぜかお土産屋さんらしきものがある。そしてその事務所らしきところに男女8名ほどがいた。

そしてその中の一人の男性に電話を貸して欲しいと頼むと、快く携帯電話を渡してくれた。

さてもう一度電話してみると、また場所を言えという。どう考えても地元の彼らに説明してもらった方が早いだろうということで、代わりに英語の出来る男性に場所を説明してもらった。すると彼がいろいろと聞いてくれたらしく、またも45分待てという。

そしてその彼が言うには、前回私がかけた分の記録は残っていないと…。そりゃ来ないはずだって。H***zさん、いい仕事してますな。

しばらくすると英語を話す男性は帰宅し、その家の夫婦らしきふたりが残った。するとほとんど英語を離せない彼が寒いだろうとコーヒーを入れてくれた。なんとありがたいよ。

20時近くなり、もう暗い。そしてメカニックは来ない。

すると彼は自発的にH***zに電話をして交渉してくれている。何度もかけ直してくれている。後で聞くと無責任なオペレータばかり出るので何度も電話したとのこと。

最終的に真っ当な男性が出て、私に代われといったらしい。ここで電話を受け取り、話を聞くとまたも衝撃的な展開が。

「今晩はとても忙しい(正確にはcomplicateと言った)ので、そこに行くには3時間以上かかります」

おいおい、2時間待ってこれかよ。

「ということで今夜はタクシーを回しますので、それでホテルに帰りますか?」

と提案される。さすがにここで3時間以上待つのは現実的ではないので、タクシーを呼んでもらうことにした。すると40分待てという。隣町から呼べば10分で来そうなきもするが、とりあえず待つことにする。

ホテルに向かうということで、とりあえず全員ほっとした様子。そして一度車に戻り、今晩必要な荷物を取り出した。

そしてタクシーは来ない。

来ない。

またもフランス人の彼がH***zに電話してくれているらしい。すると暗がりから小柄な女性がやってきた。聞くと英語の話せない彼が通訳として彼女を呼んでくれたらしい。何て親切な人達…。

H***zから彼の電話に連絡が入り、明日はどうすると聞かれた。出来るだけ早く戻って、車を救出したいので朝一番で電話をしてくれるように念を押す。

そして21時55分ついにやって来た、タクシーである。最初にH***zへ電話してから4時間あまり、長い戦いであった…。

親切にしてくれた3人に礼を言い、タクシーに乗る。走り出すと後ろに座ったN氏やS氏は爆睡していたが、助手席に座った私はちゃんとホテルに着くか心配でそれどころではなかった。

ホテルに着いたのは22時30分。こちらは電話で確認しておいたので、チェックインは問題ない。そしてここで風呂に入ったりすると切りがないので、とりあえずそのまま食事に行くことにする。

フロントで聞くと駅前にはこの時間でも開いているレストランがあるらしい。確かに駅前には何軒かのレストランが営業中であった。

体が冷えたこんな時にはやはり、赤ワイン。そしてフレンチオニオンスープを飲むと、やっと文明の中に帰ってきた気がした。

永遠かと思えた夜がやっと終わったのだ。

復活編に続く